大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10602号 判決 1985年4月25日

原告(反訴被告) 能嶌外茂吉

<ほか四名>

右五名訴訟代理人弁護士 福岡清

同 山崎雅彦

被告(反訴原告) 有限会社興土社

右代表者取締役 敦沢愛

右訴訟代理人弁護士 石井成一

同 中村隆

主文

一1  原告(反訴被告)能嶌外茂吉と被告(反訴原告)との間において、同原告(反訴被告)が被告(反訴原告)から賃借している別紙物件目録記載(一)の土地の賃料が、昭和五五年一〇月一〇日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき金一万八一九二円、同年一二月一日以降一か月につき金一万九七六二円であることを確認する。

2  原告(反訴被告)大久保秀雄と被告(反訴原告)との間において、同原告(反訴被告)が被告(反訴原告)から賃借している別紙物件目録記載(一)の土地の賃料が、昭和五五年一〇月二三日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき金一万三四五〇円、同年一二月一日以降一か月につき金一万四六一一円であることを確認する。

3  原告(反訴被告)小川璋子及び同小川裕と被告(反訴原告)との間において、同原告(反訴被告)両名が被告(反訴原告)から賃借している別紙物件目録記載(一)の土地の賃料が、昭和五五年一一月一八日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき金二万三四五二円、同年一二月一日以降一か月につき金二万五四七六円であることを確認する。

4  原告(反訴被告)矢部作蔵と被告(反訴原告)との間において、同原告(反訴被告)が被告(反訴原告)から賃借している別紙物件目録記載(一)の土地の賃料が、昭和五五年一一月五日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき金二万四一〇六円、同年一二月一日以降一か月につき金二万六一八七円であることを確認する。

二  原告(反訴被告)らのその余の請求及び反訴原告(被告)のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その一を原告(反訴被告)らの、その余を被告(反訴原告)の、各負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告(反訴被告。以下「原告」という。)ら

1  (本訴請求の趣旨)

(一) 原告能嶌外茂吉(以下「原告能嶌」という。)と被告(反訴原告。以下「被告」という。)との間において、同原告が被告から賃借している別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という。)の賃料が、昭和五五年一〇月一〇日以降一か月につき一万四三二八円であることを確認する。

(二) 原告大久保秀雄(以下「原告大久保」という。)と被告との間において、同原告が被告から賃借している本件土地の賃料が、昭和五五年一〇月二三日以降一か月につき一万〇五九三円であることを確認する。

(三) 原告小川璋子及び同小川裕(以下「原告小川両名」という。)と被告との間において、同原告両名が被告から賃借している本件土地の賃料が、昭和五五年一一月一八日以降一か月につき一万八四七一円であることを確認する。

(四) 原告矢部作蔵(以下「原告矢部」という。)と被告との間において、同原告が被告から賃借している本件土地の賃料が、昭和五五年一一月五日以降一か月につき一万八九八七円であることを確認する。

2  (反訴請求の趣旨に対する答弁)

被告の反訴請求を棄却する。

3  訴訟費用は、本訴反訴を通じて被告の負担とする。

二  被告

1  (反訴請求の趣旨)

(一) 原告能嶌と被告との間において、同原告が被告から賃借している本件土地の賃料が、昭和五五年一〇月一〇日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき六万八〇三四円、同年一二月一日以降一か月につき七万三五九二円であることを確認する。

(二) 原告大久保と被告との間において、同原告が被告から賃借している本件土地の賃料が、昭和五五年一〇月二三日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき五万〇二九八円、同年一二月一日以降一か月につき五万四四〇七円であることを確認する。

(三) 原告小川両名と被告との間において、同原告両名が被告から賃借している本件土地の賃料が、昭和五五年一一月一八日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき八万七七〇三円、同年一二月一日以降一か月につき九万四八六九円であることを確認する。

(四) 原告矢部と被告との間において、同原告が被告から賃借している本件土地の賃料が、昭和五五年一一月五日以降昭和五七年一一月末日まで一か月につき九万〇一四九円、同年一二月一日以降一か月につき九万七五一四円であることを確認する。

2  (本訴請求の趣旨に対する答弁)

原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、本訴反訴を通じて原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  原告らは、かつて被告所有の本件土地上に別紙物件目録記載(四)の(1)ないし(4)の建物(以下「旧木造建物」ともいう。)を各自所有し、本件土地を賃借していた。

2  被告は、本件土地の再開発を計画し、原告らと協議の結果、原告らの旧木造建物を収去し、一時立ち退いた後、別紙物件目録記載(二)の建物(以下「並木橋ビル」ともいう。)を建築し、このビルの一部を区分所有として各原告に譲渡し再入居する約束を交わし、昭和五四年四月一一日原告らと被告間に渋谷簡易裁判所において、即決和解が成立した。

3  右和解に基づき、原告らは旧木造建物を収去して本件土地を明け渡し、新築後の並木橋ビル内の別紙物件目録記載(三)の(1)ないし(4)の建物部分の区分所有権を取得するとともに、それぞれ所有権移転登記手続を経て次の日に入居した。

(一) 原告能嶌 昭和五五年一〇月一〇日

(二) 原告大久保 同年同月二三日

(三) 原告小川両名 同年一一月一八日

(四) 原告矢部 同年同月五日

4  ところで、右和解の際はもちろんその後も原告らと被告の各代理人弁護士間で並木橋ビルが完成し入居した時は、従前の賃借の経緯、建物の占有面積等を勘案して原告ら所有の建物部分につき本件土地に借地権を設定したうえ、その地代を決定する旨の合意が成立していたところ、入居後、検討中ということで延び延びとなっていた。

5(一)  そこで、原告らは、昭和五六年一一月渋谷簡易裁判所に対して地代確定調停事件を提起し(同裁判所昭和五六年(ユ)第一八二号)、被告が提示した本件土地の昭和五六年度の固定資産税、都市計画税に基づき、原告ら各自の占有面積を建物全体の面積より割り出し、本件土地に占める割合を算出して次の金額が月額賃料として相当である旨主張した。

(1) 原告能嶌 一万四三二八円

(2) 原告大久保 一万〇五九三円

(3) 原告小川両名 一万八四七一円

(4) 原告矢部 一万八九八七円

(二) これに対し、被告は同意しなかったので、原告ら、被告の双方申請で鑑定を裁判所に依頼した。その結果、原告能嶌の負担すべき地代を鑑定したところ、次の賃料に鑑定された(以下「本件鑑定」という。)。

(1) 昭和五五年一〇月一日現在 一万八二〇〇円 (専有面積一平方メートル当たり一八六円)

(2) 昭和五七年一二月一日現在 一万九八〇〇円 (専有面積一平方メートル当たり二〇三円)

(三) 原告能嶌のみ鑑定したのは、他の原告らも同一建物内にあるので、原告能嶌の鑑定に基づいて各自の専有面積に応じて賃料額を決定すればよいとの原告ら、被告間の合意があったからである。しかしながら、昭和五八年八月二四日調停は不成立に終った。

6  原告らが被告から賃借している本件土地についての適正な月額賃料は、それぞれ右3の入居日を基準として右5(一)のとおりである。

7  よって、原告らは被告に対し、本訴請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  本訴請求の原因に対する認否及び反訴請求の原因

(認否)

本訴請求の原因1ないし5の事実は認め、同6の主張は争う。

(反訴請求の原因)

1 原告らが被告から賃借している本件土地についての適正な月額賃料は、次のとおりである。

(一) 原告能嶌

(1) 昭和五五年一〇月一〇日以降昭和五七年一一月末日まで 六万八〇三四円

(2) 昭和五七年一二月一日以降 七万三五九二円

(二) 原告大久保

(1) 昭和五五年一〇月二三日以降昭和五七年一一月末日まで 五万〇二九八円

(2) 昭和五七年一二月一日以降 五万四四〇七円

(三) 原告小川両名

(1) 昭和五五年一一月一八日以降昭和五七年一一月末日まで 八万七七〇三円

(2) 昭和五七年一二月一日以降 九万四八六九円

(四) 原告矢部

(1) 昭和五五年一一月五日以降昭和五七年一一月末日まで 九万〇一四九円

(2) 昭和五七年一二月一日以降 九万七五一四円

2 右月額賃料の算定方法は次のとおりである。

(一) 原告能嶌の月額賃料

(1) 昭和五七年一二月一日(価格時点Ⅰ)

(ア) 積算法により算定した。ただし、

① 更地価格 一平方メートル当たり二七五万円

② 本件土地の面積 五五九・〇九平方メートル

③ 年額必要諸経費 二八八万一三七〇円

④ 専有面積合計 三七〇七・七九平方メートル

⑤ 原告能嶌の専有面積 九七・三六平方メートル

については本件鑑定評価書によった。

(イ) 本件物件全体の年額純賃料

更地価格に利回り率二パーセントを乗じた額 三〇七四万九九五〇円

(ウ) 支払賃料

年額賃料と右(ア)③の年額必要諸経費との和に、同④、⑤より算出した原告能嶌の専有面積比を乗じて、これを一二か月に分割した額         七万三五九二円

(2) 昭和五五年一〇月一日(価格時点Ⅱ)

(ア) 逆スライド方式によることとし、価格時点Ⅰ(昭和五七年一二月一日)の前記年額純賃料に、適正な変動率を乗ずることにより、価格時点Ⅱ(昭和五五年一〇月一日)における年額純賃料を求め、当該年額純賃料と対応する年額必要諸経費との和に原告能嶌の専有面積比を乗じて、これを一二か月に分割することにより算定した。

① 変動率 一〇八分の一〇〇

② 対応する年額必要諸経費 二六一万九四四〇円

については、本件鑑定評価書によった。

(イ) 本件物件全体の年額純賃料

前記(1)(イ)の価格時点Ⅰの年額純賃料三〇七四万九九五〇円に適正変動率一〇八分の一〇〇を乗じた額 二八四七万二一七六円

(ウ) 支払賃料

年額純賃料と年額必要諸経費との和に原告能嶌の専有面積比を乗じて、これを一二か月に分割した額    六万八〇三四円

(二) その他の原告らの月額賃料

(1) 原告能嶌の一平方メートル当たりの賃料を計算し、その他の原告らの専有面積を乗じて算定した。各原告の専有面積は、

(ア) 原告大久保 七一・九八平方メートル

(イ) 原告小川両名 一二五・五一平方メートル

(ウ) 原告矢部 一二九・〇一平方メートル

(2) 昭和五七年一二月一日(価格時点Ⅰ)

(ア) 原告能嶌の支払賃料七万三五九二円を専有面積九七・三六平方メートルで除して、一平方メートル当たり七五五・八七円

(イ) 原告の支払賃料

各原告の右(1)のそれぞれの専有面積を乗じて、

① 原告大久保 五万四四〇七円

② 原告小川両名 九万四八六九円

③ 原告矢部 九万七五一四円

(3) 昭和五五年一〇月一日(価格時点Ⅱ)

(ア) 原告能嶌の支払賃料六万八〇三四円をその専有面積で除して一平方メートル当たり六九八・七八円

(イ) 各原告の支払賃料

各原告の専有面積を乗じて、

① 原告大久保 五万〇二九八円

② 原告小川両名 八万七七〇三円

③ 原告矢部 九万〇一四九円

3 被告主張の賃料算定方法の正当性

価格時点Ⅰ(昭和五七年一二月一日)の年額純賃料の算定に当たり、本件鑑定は底地価格に利回り率を乗じているが、被告は更地価格に利回り率を乗じた。すなわち、本件鑑定は、原告能嶌(その他の原告らについても同じ。)の適正賃料を継続賃料として算定したため、年額純賃料の算定に当たり底地価格に利回り率を乗じる算定方法によったものであるが、原告らの賃料はいずれも新規賃料として算定すべきであり、その場合には、被告の主張する右2の算定方法によるのが相当である。その理由は次のとおりである。

(一) 原告能嶌について

(1) 新旧の賃借権の異同

(ア) 旧賃借権

原告の主張が仮に事実としても、昭和二一年ころに設定されたもので、対象となる土地は、本件土地全体でなく、別紙物件目録記載(四)(1)の原告能嶌の所有であった旧木造建物の敷地物分(乙第五号証和解調書添付図面一のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、イを順次結ぶ実線で囲まれた部分)である。

(イ) 新賃借権

被告と原告能嶌との間の昭和五三年九月一三日付覚書(乙第一号証)、昭和五四年四月一一日成立の渋谷簡易裁判所昭和五四年(イ)第五八号事件即決和解(乙第五号証)により設定されたもので、対象となる土地は本件土地全体である。

(2) 新旧賃借権の同一性の有無

(ア) 前記のとおり設定契約も、対象となる土地も異なっており権利としては別である。したがって原則として新旧賃借権の間には同一性がなく、したがって継続性もない。

(イ) 異なる賃借権について同一性(継続性)を認めるためには、換地処分等の場合のように法令に根拠があるか、当事者間に特別の合意がなければならない。本件については覚書、即決和解により、旧賃借権については、これを被告が譲り受け、混同により消滅し、あらためて新賃借権を原告能嶌のために設定したものであり、少なくとも被告にはこれを継続とする意思はなかった。

(3) 覚書、即決和解に至るまでの事情

原告らと被告との間には旧賃借権、賃料について争いがあり、昭和三〇年代の初めころから原告らの賃料の支払については供託手続の方法による状態が続いていた。被告は、本件土地の有効利用をはかるため、それまでの長期にわたる原告らとの経緯については触れず、覚書、即決和解の内容で原告らから本件土地の明渡しを受け、並木橋ビルを建設することを計画し、原告らもこれに同意した。そこで旧来の争いを精算し、新しい関係を結ぶために原告らと被告は、覚書、即決和解による合意をした。

(4) 覚書(乙第一号証)の要旨

(ア) 原告能嶌は旧木造建物を収去し、敷地を被告に明け渡す。

(イ) 被告は原告能嶌に一五か月分の営業補償、居住費及び明渡料として合計二〇〇〇万円を支払う。

(ウ) 被告は原告能嶌に別紙物件目録記載(三)(1)の建物を提供する。

(エ) 被告は原告らに対し仮店舗、保管倉庫、移転費用を提供する。

(5) 即決和解(乙第五号証)の要旨

(ア) 旧木造建物の収去と敷地の明渡し

(イ) 被告は原告能嶌に対し覚書により合意した一五か月分の営業補償、居住費及び明渡料二〇〇〇万円のうち残金一四〇〇万円を支払う。

(ウ) 被告は原告に対し右新建物を引き渡し、売買を原因とする区分所有権移転登記手続を行う。

(エ) 仮店舗、保管倉庫、移転費用の提供

(6) 新規賃料

(ア) 右(1)、(2)のとおり新賃借権は旧賃借権とは別の権利である。

(イ) 右(4)、(5)のとおり被告と原告能嶌との間には旧賃借権を継続させる趣旨で新賃借権を設定するとの合意はなかった。

(ウ) 同一当事者間に、賃貸借関係が前後して存在しているために、本件鑑定は適正支払賃料を算定するに当たり継続賃料算定の方法によったものと思われる。しかし新旧の賃貸借は、別の契約に基づく別個の賃貸借関係であり、これに継続性、少なくとも継続賃料を適用する意味での継続性は、認められない。

(7) 適正支払賃料の算定積算法による新規賃料の算定

(ア) 積算法とは、投下資本に期待利回りを乗じて純賃料を求める方法である。賃貸人からみて、資金を土地に投資した場合と他へ投資した場合とを比較して、他へ投資した場合に得られる果実に比較して相当と考えられる果実をもとに賃料を算定する考え方である。

(イ) そこでの投下資本とは土地価格であり、期待利回りとは銀行等に預金した場合の金利が原則となる。

(ウ) 継続賃料を算定する場合には、急激な土地価格の上昇、借地法による借地人保護という二つの大きな要因によって、次の二点において修正された積算法が適用されることが多い。

修正の一つは、土地価格を更地価格ではなく底地価格としている点である。その理由として投下資本としての土地価格のうち賃貸人が把握している価値は、借地権価格を除いた底地価格にすぎないからであるとされている。しかし、これは継続賃料の場合や、新規の賃貸借であっても当初に権利金等の形式により借地権部分の価値が賃借人側に移転している場合が前提でなければならない。そうでない場合は、投下資本を底地価格とする合理的理由はなく原則どおり更地価格を投下資本と考えるのが相当である。

修正の二つめは期待利回り率である。利回り率は銀行預金等に比較して、著しく低く評価される場合が多い。これは、継続賃料算定の場合、銀行預金等と同じ利率で純賃料を算定すると、積の一方の数値である土地価格の上昇が激しいので近隣の例と比較して純賃料が著しく高額となってしまうため、逆に近隣の例と均衡する純賃料を導きだすために利回り率を低く評価しているものと考えられる。新規賃料の場合にまで利回り率を継続賃料と同様に低率に評価しなければならない合理的理由はない。

(エ) したがって新規賃料の場合は、積算法の修正の理由はなく、原則どおり投下資本に相当な利回り率を乗じて純賃料を算定すべきである。

(8) 以上のとおり、原告らの新賃借権は覚書、即決和解により設定されたものであるから、その適正支払賃料を算定するに当たっては継続賃料としてではなく新規賃料として算定されるべきであり、その純賃料は、積算法の原則に従って、更地価格に相当利回り率を乗じて算定するのが相当である。

(二) その他の原告らについて

その他の原告らについても事情はほぼ同一であるので、共通する点は右(一)の主張を援用し、主要な相違点のみを、次に摘示する。

(1) 原告大久保について

(ア) 覚書 乙第二号証、和解調書 乙第六号証

(イ) 即決和解 乙第六号証 渋谷簡易裁判所昭和五四年(イ)第五九号事件の和解調書

(ウ) 旧賃借権の設定時期 昭和二三年ころ

(エ) 旧木造建物 別紙物件目録記載(四)(4)

(オ) 旧木造建物の敷地 乙第六号証添付の図面一のイ、ロ、ハ、ニ、イを順次結ぶ実線で囲まれた部分

(カ) 新建物 別紙物件目録記載(四)(4)

(キ) 覚書による営業補償費、居住費、明渡料 一五五〇万円

(ク) 即決和解による営業補償費、居住費、明渡料の残金 一〇八五万円

(2) 原告小川両名について

(ア) 覚書 乙第三号証、和解調書 乙第七号証

(イ) 即決和解 渋谷簡易裁判所昭和五四年(イ)第六〇号事件の和解調書

(ウ) 旧賃借権の設定時期 昭和二三年ころ

(エ) 旧木造建物 別紙物件目録記載(四)(3)

(オ) 旧木造建物の敷地 乙第七号証添付図面一のイ、ロ、ハ、ニ、イを順次結ぶ実線で囲まれた部分

(カ) 新建物 別紙物件目録記載(三)(3)

(キ) 覚書による営業補償費、居住費、明渡料 一六二〇万円

(ク) 即決和解による営業補償費、居住費、明渡料の残金 一一三四万円

(3) 原告矢部について

(ア) 覚書 乙第四号証、和解調書 乙第八号証

(イ) 即決和解 渋谷簡易裁判所昭和五四年(イ)第五七号事件の和解調書

(ウ) 旧賃借権の設定時期 昭和二三年ころ

(エ) 旧木造建物 別紙物件目録記載(四)(2)

(オ) 旧木造建物の敷地 乙第八号証添付図面一のイ、ロ、ハ、ニ、イを順次結ぶ実線で囲まれた部分

(カ) 新建物 別紙物件目録記載(三)(2)

(キ) 覚書による営業補償費、居住費、明渡料 一八〇〇万円

(ク) 即決和解による営業補償費、居住費、明渡料の残金 一二六〇万円

4 よって、被告は原告らに対し、反訴請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

三  反訴請求の原因に対する認否及び原告の反論

(認否)

反訴請求の原因1ないし3の主張は争う。

(反論)

1 本件に至る経緯

(一) 原告能嶌は、大正九年から本件土地上に存した建物を賃借して魚屋を営業していたが、昭和二〇年三月一時立ち退き、昭和二一年八月再び本件土地上に戻ることを希望して地主と交渉した。当時地主は、被告代表者の実父である小篠定あき(以下「小篠」という。)であったが、二〇坪の土地を賃借することとなり、同年九月原告能嶌が建物を建築した。土地賃借の際、権利金として総額二〇〇〇円を小篠に支払ったが、領収書は交付されなかった。当初の賃料は明らかではないが、昭和二五年八月ころ、当時の地主である被告代表者との間で一か月六〇〇円と合意された。昭和三一年八月分まで被告代表者が賃料を取立てに来たが、本件土地が区画整理となり、賃料を受け取ることはできないとのことで、それ以降の分の賃料の受領を拒絶された。そのころ実際に区画整理のため二か月間ほど他の場所に居住したが、また元の場所に戻るところとなった。ところが、区画整理が終った後も原告らが、被告代表者に賃料の受領を要求しても、同人は詳しい理由は明らかにしないまま「借地権は消滅したので賃料は受け取れない。」などといって受領を拒絶したので、昭和三二年二月、昭和三一年九月分以降の九か月分を合せて供託し、その後毎月供託を続けていった。供託している間も何回か原告らが賃料の受領を要求しても、被告代表者は賃料の受領には応じないので、昭和四一年一月分より原告らが話し合い自ら賃料を三倍とすることとし、原告能嶌は一か月一八〇〇円を供託し、昭和四七年七月分からは、一か月六〇〇〇円として、後述する即決和解まで供託を続けた。

(二) 原告大久保は、昭和二三年四月、本件土地上の一五坪を小篠より借り受け、権利金として坪一〇〇〇円の割合で合計一万五〇〇〇円を支払った。当初の賃料は一五〇円程であり、昭和二五年八月分より四五〇円となり、昭和三一年八月まで被告代表者に支払い、原告能嶌と同様賃料の受領を拒絶されたので、昭和三二年二月、供託を始め、昭和四一年一月分より賃料を自ら三倍として一か月一三五〇円を、昭和四八年七月からは一か月四五〇〇円を昭和五四年四月まで供託した。

(三) 原告小川両名は、昭和二三年三月、本件土地上の二二・七五坪を小篠の知人に仲介に入ってもらい、権利金として坪一〇〇〇円の割合で合計二万三〇〇〇円を支払って借り受けた。当初の賃料は一か月二四一円五〇銭であり、昭和二五年八月に一か月六一六円に値上げされ、昭和三一年八月まで被告代表者に支払った。その後前記同様昭和三二年二月より供託、昭和四一年一月分より三倍の一か月一八四八円を、昭和四八年七月分より一か月六一六〇円を供託してきた。

(四) 原告矢部は、昭和二三年四月、本件土地上の二五坪を権利金坪三〇〇〇円の割合で合計七万五〇〇〇円を支払って借り受け、同年六月ころ二八坪に借り増した。当初の賃料は明らかではないが、昭和二五年八月分より一か月八四〇円となり、昭和三一年八月まで被告代表者に支払い、その後前記同様供託をした。昭和四一年一月分より供託の賃料を一か月二五二〇円とし、昭和四七年八月分より一か月八四〇〇円として昭和五四年四月分まで供託した。

(五) 被告は旧賃借権、賃料につき争いがあったとするが、原告らが供託をしたのは右のとおりである。したがって、昭和五四年四月時点においても原告らに借地権があったことは明らかであり、被告による本件土地上のビル建築希望が強いので、被告に協力する意味で、再び並木橋ビルの一部を所有し入居することを条件に本件土地上を立ち退くこととして、昭和五四年四月一一日、被告との間で即決和解をしたものであった。しかして、借地権を一たん消滅させ、新賃借権を設定する話は一切なく、むしろ新しいビルの建築中は一たん立ち退くものの、ビル完成後には再入居することが約束されていた。当事者間においては従来の賃借権を前提として、原告らをビルの区分所有者とさせたうえ、本件土地上の賃借権を継続させることが、当然の前提とされていたのである。原告らは、ビルの建築に当たって一時立ち退くため営業補償、居住費として金員を受領しているが、これは旧賃借権を精算する意味で授受されたものではない。

2 本件の賃料について

以上のとおり、原告らがそれぞれ並木橋ビルの一部を所有することについては、本件土地上に借地権が継続されることが当然の前提であり、従前の借地権関係を抜きにして賃料を考えることはできないものというべきである。また、ビルが新築であり従前の木造家屋とは構造的には異なることなどを考慮に入れても、被告が、本件土地上にビルを建築所有し、自らも使用、収益をなすことができるようになった利益は大きく、反面原告らは従前の一戸建てではないところからくる種々の不都合をあえて甘受しなければならないことの不利益も勘案すれば(前記のとおり、原告らとしては従前の借地権のままで一向に差し支えなかったところ、被告に協力する意味で一時本件土地上を立ち退いたものである。)。賃料が従前より大幅に増額されることは極めて不合理である。またもし仮に賃借権に継続性がなく、賃料が再入居後大幅に増額されることが予定されていれば、被告に協力して、旧建物を明け渡すことなど絶対に応じなかったものである。

第三証拠関係《省略》

理由

一  本訴請求の原因1ないし5の事実は争いがない。

二1  右争いのない事実によれば、原告らと被告の間には、原告ら所有に係る別紙物件目録記載(三)(1)ないし(4)の建物(並木橋ビル内の建物部分)の敷地として使用する目的で、被告が本件土地を原告らに対して賃貸する旨の合意は成立しているものの、賃料額は後日協議により決定することとされたままで、その後当事者間で合意が成立しない状態にあることが認められる。このような場合、民法三八八条但書を類推して、裁判所は、当事者の請求により適正な賃料額を確定したうえで、それに基づいて当事者間の権利関係を判断することができるものと解されるので、以下それを前提として検討する。

2  成立に争いがない甲第一号証(本件鑑定評価書)によれば、本件鑑定は本件土地についての原告能嶌の適正月額賃料を、次のように算定していることが認められる。

(一)  価格時点Ⅰ(昭和五七年一二月一日現在)

① 本件土地の更地価格 一平方メートル当たり二七五万円

② 本件土地の面積 五五九・〇九平方メートル

③ 底地割合 〇・二

④ 底地価格(①×②×③) 三億〇七五〇万円

⑤ 利回り率 〇・〇二

⑥ 年額必要諸経費 二八八万一三七〇円

⑦ 並木橋ビルの専有部分総面積 三七〇七・七九平方メートル

⑧ 原告能嶌の専有部分面積 九七・三六平方メートル

⑨ 適正月額賃料 一万九八〇〇円

(算式)

(④×⑤+⑥)×⑧/⑦×1/12=19,800(100円未満四拾五入)

(二)  価格時点Ⅱ(昭和五五年一〇月一日現在)

① 価格時点Ⅰの底地価格 三億〇七五〇万円

② 価格時点Ⅱ、Ⅰ間の変動率 一・〇八

③ 利回り率 〇・〇二

④ 年額必要諸経費 二六一万九四四〇円

⑤ 並木橋ビルの専有部分総面積 三七〇七・七九平方メートル

⑥ 原告能嶌の専有部分面積 九七・三六平方メートル

⑦ 適正月額賃料

(算式)

(①÷②×③+④)×⑥/⑤×1/12=18,200(100円未満四拾五入)

3  ところで、本件鑑定が算定し、あるいは使用した数値のうち、右2(一)①、②、⑤、⑥、⑦、⑧、同(二)②、③、④、⑤、⑥と、算定の方法(計算式)自体は、当事者双方の主張に照らし、いずれもその正当性を明らかに争わないものとみることができるし、また、当裁判所も、前掲甲第一号証の内容に照らし、これを正当と認める。そこで、結局原告能嶌の適正月額賃料の算定に関する争点は、賃料算定の過程で用いられる純賃料額を、更地価格に利回り率を乗じて算定するか、底地価格(更地価格に底地割合を乗じたもの)に利回り率を乗じて算定するか、換言すれば、本件土地の賃料を新規賃料とみるべきか、継続賃料とみるべきか(前者は被告、後者は原告らの、各主張)に帰するものと言ってよい。そこで、以下右の点について検討する。

4  《証拠省略》によれば、原告らと被告は、昭和五四年四月一一日渋谷簡易裁判所において即決和解(昭和五四年(イ)第五七ないし第六〇号)が成立したときまでに、旧木造建物の所有を目的とする本件土地の賃借権(旧賃借権)を、その同一性を維持したまま並木橋ビル内の建物部分の区分所有を目的とする賃借権(新賃借権)に変更することを合意した事実を認めることができる。もっとも、旧賃借権と新賃借権とは、被告主張のように、設定契約も、対象となっている土地の範囲も異なってはいるが、それは、原告らと被告間で即決和解が成立し、原告らの同意の下に旧木造建物の取毀しと並木橋ビルの新築が行われた経緯に照らして当然であるから、何ら前記認定を左右するものではなく、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。しかして、右認定の事実によれば、本件土地の賃料は継続賃料として算定するのが相当であると認められ、また、前掲甲第一号証によれば、本件鑑定が用いた底地割合〇・二という数値は正当と認められるから、これらの各数値を用いて、原告能嶌の価格時点Ⅰ、Ⅱにおける適正月額賃料を算定すると、別紙計算書記載1のとおり、次の金額となることが認められる(なお、本件鑑定が行っている計算上の端数処理のうち、特にそのようにする合理的根拠が認められないと判断した部分は、計算上採用しなかった。以下も同様である。)。

(一)  価格時点Ⅰ 一万九七六二円

(二)  価格時点Ⅱ 一万八一九二円

5  次に、その他の原告らの適正月額賃料については、並木橋ビル内の区分所有建物の専有部分面積を各原告ごとに変更するほかは、原告能嶌の場合と全く同じ方法で算定するのが相当である。そこで、右方法で算定すると、別紙計算書記載2ないし4のとおり、次の金額となることが認められる。

(一)  原告大久保

(1) 価格時点Ⅰ 一万四六一一円

(2) 価格時点Ⅱ 一万三四五〇円

(二)  原告小川両名

(1) 価格時点Ⅰ 二万五四七六円

(2) 価格時点Ⅱ 二万三四五二円

(三)  原告矢部

(1) 価格時点Ⅰ 二万六一八七円

(2) 価格時点Ⅱ 二万四一〇六円

6  各原告の適正月額賃料は右4、5に判示したとおりであるから、これを原告らと被告間の本件土地賃貸借の賃料額として確定するのを相当とする。なお、価格時点Ⅱについては、本訴、反訴の各請求の趣旨に徴し、各原告の並木橋ビルへの入居日(請求の原因3参照)を基準として確定することとするが、このようにしても、価格時点Ⅱと各入居日の差はわずかであって、その間の相当賃料額の変動は無視し得るものであるので、特に支障はないものと解する。

三  以上の次第で、原告らの本件土地の月額賃料は右二4ないし6掲記のとおり確定されたものであるから、本訴、反訴の各請求はそれぞれ右各金額の範囲内で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条に従い、主文のとおり判決する(なお、本訴、反訴の各請求はいずれも賃料額の確認を求めるものであるが、賃料債務者である原告らが提起した本訴請求は、その性質上、各主張金額を超える部分の賃料債務の不存在確認を求めるものであり、他方、賃料債権者である被告が提起した反訴請求は、各主張金額の賃料債権の存在確認を求めるものであると解されるところ、これに対応して、本判決主文第一項も、同項で認定した各賃料額を超える債務の不存在と、右同額の賃料債権の存在とを確認する趣旨のものである。)。

(裁判官 西尾進)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例